はじめに
ゲーム開発を始めようとした時、99%の人はこう言います。「Unityを使え」と。 あるいは「Unreal Engine 5がすごい」と。
確かに、それらは素晴らしいツールです。3Dグラフィック、物理演算、アセットストア……すべてが揃っています。 しかし、私(SAPO_CREATE_STATION)はそれらを使わず、あえて「Python + PySide6」という、ゲーム開発においては茨の道を選びました。
「なぜわざわざ大変な道を行くのか?」 今回は、その技術的な合理性と、エンジニアとしての個人的な美学について語ります。
§1. 「ブラックボックス」を許せないエンジニア気質
Unityは便利すぎます。「Rigidbody」を付ければ重力が働き、「NavMesh」を使えば敵が追いかけてきます。 しかし、そこには「なぜそう動くのか?」という理解が欠落しがちです。
私は、自動車を運転したいのではなく、エンジンを分解して組み立てたいタイプの人間です。
描画処理はどうなっているのか?
メモリはどう管理されているのか?
アルゴリズムはどう動いているのか?
Pythonでゼロから組むことは、これらをすべて自分の管理下に置くことを意味します。 「車輪の再発明」は無駄と言われますが、学習者にとってこれほど贅沢な経験はありません。
§2. 戦略SLGの本質は「数値計算」にある
私が作っているのは、派手なアクションゲームではなく、硬派な戦略シミュレーション(RTS/SLG)です。 このジャンルにおいて重要なのは、グラフィックの美麗さよりも「計算の強さ」です。
ボロノイ図による複雑な領域計算
経済シミュレーションのパラメータ変動
AIの意思決定ロジック
これらを扱うにおいて、科学技術計算の王者であるPython(NumPy / SciPy)に勝る言語はありません。 Unity(C#)で複雑な行列計算を書くよりも、Pythonで import numpy する方が、私の作りたいゲームには圧倒的に適しているのです。
§3. 「ゲーム」ではなく「シミュレーター」を作りたい
私の作品(Corporate_Warsなど)を見ていただければ分かりますが、私が目指しているUIは「ゲーム画面」というより「業務アプリ」や「制御コンソール」に近いです。
PySide6(Qt)は、元々デスクトップアプリを作るためのフレームワークです。 ボタン、スライダー、ウィンドウの挙動……これらはゲームエンジンで作るよりも、アプリ開発用フレームワークで作った方が、遥かに「機能的で美しいUI」を構築できます。
私は「没入感のある世界」よりも、「精緻に動くコンソール画面」を作りたい。だからPySide6が正解なのです。
§4. 「import」するだけ。ライブラリ管理の透明性
Unityなどは「ライブラリ(アセット)が豊富」とよく言われます。 しかし、その実情は必ずしも楽ではありません。
便利な機能を求めて個人サイトやGitHubからパッケージをダウンロードしたものの、Unity本体のバージョンと合わずにエラーを吐く。 いわゆる「整合性の崩壊(バージョン落ち)」です。 他人の書いたコードのエラー修正に時間を費やすことほど、開発のモチベーションを下げるものはありません。
その点、Pythonは天国です。
基本的には pip install して import するだけ。
世界中の天才たちがメンテナンスしている標準化されたライブラリを、環境設定ごときで悩み時間を浪費することなく、即座に「自分の武器」として組み込めます。
この**「導入の軽さ」**こそが、個人開発のスピード感を支えているのです。
おわりに:弘法は筆を選ばないが、マニアは筆を作る
もちろん、今後3Dアクションを作りたくなればUnityを使うでしょう。適材適所です。 しかし、「自分の掌で把握できる範囲で、論理を積み上げて世界を作る」という楽しみにおいて、Pythonでのフルスクラッチ開発は最高の遊び場です。
もし、貴方が「既存のエンジンでは何かが違う」と感じているなら。 一度、真っ白なテキストエディタとPythonだけで、ウィンドウ一つ出すところから始めてみませんか? そこには、不便だけど自由な世界が広がっています。

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